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陸上 NARUHODO The HISTORY
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このコーナーでは、陸上の歴史にスポットをあてていきます。自分の得意種目にも、意外と知られていないエピソードがあるもの。ここではそんな話題の数々をご紹介していきます。
解説 尾懸 貢(筑波大教員)
第2回:トラック左回りの謎
トラック右回りの謎
Illustration by イシズカ千鶴子

トラックを右回りに走ってみると?
 トラックのコーナーを、いつもと逆回りに全力で走ってみてください。何か不自然さを感じ、遅くなったような気がすることでしょう。幼い頃からトラックを左回りで走っているために、走り方がそれに適応したためです。コーナーが急であればあるほど、また速く走れば走るほど、身体に働く遠心力は強くなり、身体はコーナーの外に放り出されそうになります。これを避けるため、知らず知らずのうちに身体をコーナーの内側に倒したり、外側の腕(右腕)をグルグル回してバランスを取ったりします。そのうちに、この動きが定着してきます。そうなると、いきなり右回りに走ると違和感を感じるようになるのです。逆に、もし幼い頃から右回りに慣れていたとすると、左回りに違和感を感じることでしょう。
 「人間は左回りに走るべき」ということを証明できる科学的根拠は見当たりません。人間の心臓が左側にあり、心臓を保護するためには左側に傾いた姿勢がよいという「心臓説」、右手が利き手の人が圧倒的に多く、器用な右手を外側にして、うまくバランスをとりながらコーナーを走れば合理的だという「右利き手説」がありますが、これらはいずれも説得力に欠けるものです。
 そこで、「なぜ、左回りになったのか?」を歴史的に探ってみましょう。

古代ギリシャは直線走路。なんと右回りを採用していた時代も!
 古代ギリシャのオリンピックでは、短距離走、長距離走ともにスタディオンという180m〜210m(各地によって異なる)の直線競走路を用いて行われました。長距離走は、この直線競走路を何回も往復するという形式が採られており、「トラックをグルグル回る」という現在のやり方とは異なるものだったのです。
 では、トラックを回るようになったのは、いつ頃のことなのでしょうか? それは、近代に突入した比較的最近のことであり、近代陸上競技の発展の中心となったイギリスで最初に見られました。なんと驚くことに、この頃はトラックを右回りに走っていたのです。1864年に始まったオックスフォード大学とケンブリッジ大学の対校戦や、1866年から始まったイギリスの選手権でも右回りが採用されていました。右回りは、イギリスで陸上競技よりも早くから人気のあった競馬にならって決めたものだといわれています。
 また、近代オリンピック大会でも1896年の第1回大会から第3回大会(アテネ大会、パリ大会、セントルイス大会)までは、イギリスのやり方にならい右回りを採用していたのです。

左回りルールは1912年から
 左回りに変わったのは1908年の第4回ロンドン五輪からであり、その4年後に設立された国際陸上競技連盟がルールとしても左回りを採用しました。
 その内容は「左手が内側になるように走らなければならない」というものでした。その後、そのルールは改正されることなく今日に至っています。
 左回りと右回り。どちらが本当に速く走れるか、今一度、科学的に解明してみる必要がありそうです。



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