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レベルアップへの処方箋

ソフトボール界の第一人者、吉村正先生が、ソフトボール・マガジンの読者を対象としたクリニックを実施しています。いろいろな悩みを抱える受講者たちに、先生が様々な処方箋を与えてくれます。自分自身の悩みと重ね合わせ、投球のレベルアップにつなげてください。

※こちらの内容はソフトボール・マガジンに掲載中です。受講者の応募に関しても本誌をご覧下さい。

講師 吉村正(よしむら・ただし)
昭和20年京都府宇治市に生まれ、5歳のときより兄の指導でソフトボールを始める。平安高校(野球部)を経て、早稲田大学卒業。現在、早稲田大学教授(健康科学)・評議員、ソフトボール部総監督、日本体育大学非常勤講師(野球・ソフトボール)。元ハワイ大学客員教授。
 
第9回:手首のスナップを効かせて変化球を習得〜中級者編〜
今回の受講者は、投手歴22年の谷口徹さん。ウインドミルがまだ一般に浸透していない頃から投げ続けているという。昨年は念願の全国大会に出場。しかし結果は1回戦負けだった。「もう1度全国大会へ」を目標に受講を決めた。
谷口徹さん
受講者プロフィール
氏名:谷口徹(たにぐち・とおる)さん
生年月日:1957年6月10日
身長・体重:172cm、74kg
右投右打
現所属チーム:フォーティパワーズ
ソフトボールを始めた年齢:24歳
ソフトボール歴:クラブチームで22年

変化球マスターが目標
 今回の受講者は大阪在住の谷口徹さん。週末を利用してこの講習に参加した。
 開始時刻の30分ほど前にグラウンドに到着すると、友人の河合恒夫さんを相手にさっそくキャッチボールを始めた。
 谷口さんと河合さんはかつて同じチームでプレーしたこともある間柄。河合さんは現在、仕事の関係で東京に住んでいる。この日は友人代表として応援に駆けつけてくれたのだ。
 互いによく知る相手だけに、ウォーミングアップもスムーズに…と思ったら、谷口さんのボールはあっちへ行ったりこっちへ行ったり。まったくコントロールが定まらない。谷口さんは「緊張してしまって…」と苦笑い。
 必要以上に緊張するのも無理はない。実は谷口さんは、サインをもらうために先生の著書を持参するほど、吉村先生のファンだったのだ。
 「ちょっとランニングでもしてきます」。まずは走って体を温め、少しでも緊張感を和らげることにした。吉村先生が現れる頃にはだいぶ落ち着いたようだ。
 吉村先生は谷口さんのボールを数球見ると、今回の受講の目的をたずねた。
 「ヒジをぶつける感覚がわからないのと、ライズやチェンジアップといった変化球を覚えたいんです」と谷口さん。自己流で投球を学んだため、これまで変化球を身につけることができずにいたのだ。

「もう一度全国大会へ」
 谷口さんがソフトボールを始めたのは、24歳のときだった。職場の同僚に、なかば強制的に参加させられたのがきっかけだった。それまで野球の経験もなかった谷口さんは、最初、ファーストやライトといったポジションを守った。
 「私は足も速くなかったし、しょっちゅうエラーはするし、決して楽しくはなかった」と当時を振り返る。
 ところがある時、ピッチャーをしていた先輩が「最近、こんな投法がある」と、変わった投げ方を教えてくれた。それがウインドミルだった。試しに投げてみると、自分でも思いもよらないほどにスムーズに腕が回り、驚くほどのスピードが出た。
 それ以来、ウインドミルをマスターするため、毎日のように練習するようになった。試合で打たれては、また練習した。時には味方から野次られることもあったというが、練習をやめなかった。
 嫌々ソフトボールをしてきた谷口さんだったが、いつのまにか「ソフトボールとの出合いで私の人生は変わった」とさえ言えるほどの、大事な存在になっていた。
 当時ウインドミルの投手はあまりおらず、これをマスターした谷口さんは試合で結果が残せるようになったのだ。
 40歳を過ぎて新チーム『フォーティーパワーズ』を結成。昨年は大阪大会で準優勝し、念願だった全国大会『2003スポーツマスターズ和歌山大会』へも出場を果たした。ところがあえなく1回戦で敗退してしまう。ストレート1本で押す投球は、全国大会では通用しないことを知った。
 「もう一度全国大会へ」。これを大きな目標に掲げ、この講習に参加することを決意した。

講習前の谷口さんの投球フォーム
講習前の谷口さんの投球フォーム
●講習前の投球フォーム。下段左から2枚目のように大きく沈み込み、最初から捕手と正対するフォームだった

まずは投球フォームの問題点をクリアに

 谷口さんの投球フォームは力強く、重いボールを投げているように見える。バッターに向かって大きく足を踏み込んで、沈み込むように投げるからだ。だが、そこにこそ問題点があると吉村先生は指摘する。
 「その投げ方だと、どれだけ力を入れて投げても、強い力は出ないんです。いわゆる昔のスリングショット、スタンダード投法なんですよ。ですから、若い10代、20代くらいの選手が毎日練習して、体力で投げている分には悪くないフォームですが、疲れやすいです。とてもいい、というわけでもない」。
 谷口さんがウインドミルを覚えた頃、見本となる投手が周りにいなかった。そのため、当然参考にするのはスリングショット投法の選手だった。だからウインドミルとスリングショットが合わさったフォームになってしまったのかもしれない。これこそ谷口さん自身が「自己流」と認めているところ。
 「今の投げ方では、夏に1試合投げたら踏み出し足がグラグラになっちゃうでしょう。その投げ方でムリしないほうがいいです。徐々に修正していきましょう」。

横を向いたところから
捕手と正対するのではなく、横を向いたところからフォームの修正をしていく

 まずはキャッチャーに対して半身になるように構え、腰が流れないようにする練習。体重移動はせずに、腰と腕だけの感覚をつかむ。この時、ウインドミルで投げるのではなく、スリングショットのほうが覚えやすい。
 「やり投げでもテニスでもバッティングでも、遠くへ強く飛ばすためには腰を残すことが大切なんです」。腰がしっかり安定しているからこそ、ヒジと腰がぶつかった瞬間にボールが自然と勢いよく飛び出す。「スナップの効いたいいピッチング、という言い方をよくするでしょう。それがこういうことなんです」。
 これをしばらく繰り返したところで、次は片足ピッチングに移る。腰を動かさず、ヒジをぶつける感覚をマスターするには欠かせない。
 軸足に体重を乗せ、腕の回転と、腰とヒジが接触する位置を確認しながらていねいに行う。
「まだまだ満足はできませんが、20年以上やっているのを1時間くらいで完璧にできるわけはないですから」。
 いつでも思い出せるように、確認すべきポイントだけはしっかり頭に入れた。

肩足ピッチング
片足ピッチングでヒジと腰の位置を確認する

打ちやすいボールを投げない
 谷口さんの投じるボールの大きな問題点は、球筋が素直だということ。ストレートが、線を引いたように真っ直ぐキャッチャーミットに収まる。
 「ピッチャーは、バッターが打ちやすいボールは放っちゃいけないんです。打たれないボールを投げなければいけない。それだけは徹底的に頭に入れておいてください。谷口さんのボールはとてもきれいなんですが、それはフリーバッティングに投げるボールなんです。バッターを喜ばせてはいけない」。
 その原因は、腕が真っ直ぐ振り抜かれていることにある。
「これから変化球にトライしますが、いくらボールの握りだけを研究しても、変化しにくいです。もっとヒジから先全部を使って投げるようにしなければ変化はしません」。
 打ちにくいボールを投げるということは、当たり前のようだが、勇気のいることでもあるのかもしれない。ワイルドピッチ、パスボールを気にすると、キャッチャーが捕りやすいボールを投げなければ、と考えても不思議ではないからだ。しかしキャッチャーが捕りやすいボールは、バッターが打ちやすいボールでもある。たとえパスボールが減っても、打たれてしまえば元も子もない。勇気を出してボールを動かすこと。それが変化球習得への第一歩だ。

ライズ、ドロップを習得
 ここで今回のメインである変化球へと移る。最初、ライズ、チェンジアップなどを投げるが、どれもほとんど変化しなかった。吉村先生は握りを確認する。どちらも振りは悪くない。ではなぜ変化しないのか。それは“フォームがおとなしい”ことに原因があるようだ。
 「もっと投球フォームを変えて」と吉村先生はアドバイスを送る。
「ライズは下から上へ向かって振り抜くように。ドロップはステップの歩幅を小さめにして、上から落とすようなイメージで」。

ライズの握り チェンジアップの握り ライズを投げるとき
●ライズの握り ●チェンジアップの握り ライズを投げる時は、精一杯のところまでボールをひねり上げる
捕手の視点から−日暮真之選手
 今回捕手を務めてくれた日暮(ひぐらし)真之選手は、本誌連載中の『高校ソフトボール界の名将に訊く』に登場していただいた千葉敬愛高校・日暮利幸前監督の息子さん。さすがにそのDNAを受け継いでいるだけのことはある。日暮選手は早稲田で投打に渡って活躍するチー
ムの中心選手の一人だ。
 谷口さんのボールを実際に受けた印象を聞いてみる。
「最初は、全然変化していなかったですね。変化球としての回転がかかっているのは分かるんですが、回転が弱いために、変化するまでになっていなかったんでしょうね」。
 日暮選手自身が投手ということもあり、アドバイスも的確。谷口さんもどんどん質問し、吉村先生のアドバイスを確認するように話し込む場面も見られた。
 吉村先生の「日暮、ちょっと投げてみろ」という指示で見本を見せた。その腕はリリースの瞬間、鞭のようにしなった。
「意識してそうしているわけではなく、リリースの瞬間に力を抜いているから自然に動くんです」。
 谷口さんにとっては、実際のヒジの使い方を目の当たりにして参考になったはず。それとまったく同じに、というわけにはいかないが、練習の終盤には、ボールを受けながら日暮選手が思わず「よーしっ!」と声を出してしまうようなボールも行き始めた。
ヒジと腰の当たる位置、ヒジの角度を確かめる
日暮選手をお手本にする。特に3枚目の、ヒジから先の柔らかさを参考に
講習後の谷口さんののフォーム
講習後の谷口さんの投球フォーム
●講習後の投球フォーム。リリース後の右足が後ろに残り、だいぶ腰が流れなくなっているのが分かる
「若い人を育てたい」
集合写真
練習後にみんなで。左から吉村先生、谷口さん、日暮選手、河合さん
 この日は気温も高く、日差しも強かった。休憩は挟んだものの、3時間30分に及ぶ練習は、谷口さんにとって相当こたえた様子。それでも谷口さんは、最後には満足そうな表情を浮かべていた。
 ウインドミルが一般的ではなかった20年以上も前から投げてきた。昨年は全国大会へも出場を果たした。その実績を買われて、大阪の地元では、若い選手たちからウインドミルの指導を頼まれることも少なくない。だが、谷口さんはこの種の頼みをこれまで断り続けてきた。「自分の投げ方は自己流だから」というのが理由だ。
 今回の講習の一番大きな目的は全国大会出場だが、もう一つは、熱心な若い選手たちを育てたい思いがあったからだと言う。若い選手たちを育てるということは、単に技術を伝えることだけにとどまらない。20年以上マウンドで培われた経験を伝えることができれば、それは何物にも代えがたい財産になる。
 今回、谷口さんは吉村先生から技術的なことをたくさん学んだ。それは今後、谷口さん自身はもちろん、地元の選手たちのレベルアップにもつながるに違いない。
 
※こちらはソフトボール・マガジン2004年8月号に掲載された内容です。
 
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