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レベルアップへの処方箋

ソフトボール界の第一人者、吉村正先生が、ソフトボール・マガジンの読者を対象としたクリニックを実施しています。いろいろな悩みを抱える受講者たちに、先生が様々な処方箋を与えてくれます。自分自身の悩みと重ね合わせ、投球のレベルアップにつなげてください。

※こちらの内容はソフトボール・マガジンに掲載中です。受講者の応募に関しても本誌をご覧下さい。

講師 吉村正(よしむら・ただし)
昭和20年京都府宇治市に生まれ、5歳のときより兄の指導でソフトボールを始める。平安高校(野球部)を経て、早稲田大学卒業。現在、早稲田大学教授(健康科学)・評議員、ソフトボール部総監督、日本体育大学非常勤講師(野球・ソフトボール)。元ハワイ大学客員教授。
 
第8回:片足ピッチングの徹底練習で安定感をつかむ〜中級者編〜
今回の受講者は、東村山のクラブチーム・東村山愛好会でプレーしている大野加奈子さん。プレー歴は14年と長いが、そのほとんどは遊撃手としてのもの。投手を始めてからはまだ3年だという。投手という、他とは違うポジションを行うにあたって、長年、野手をしてからの転向に難しさもあるはず。そのあたりも含めて、今回の講習をレポートする。
大野加奈子さん
受講者プロフィール
氏名:大野加奈子(おおの・かなこ)さん
生年月日:1967年5月25日
身長:160cm、右投右打
現所属チーム:東村山愛好会、萩山スカイ・レディース(スローピッチ)
ソフトボールを始めた年齢:11歳(小学校5年生)
ソフトボール歴:朝霞市立朝霞第一小学校、朝霞市立朝霞第三中学校、私立日体桜華女子高校(合計14年)

悩みは投球フォームが安定しないこと
 15分ほどの簡単なウォーミングアップが終わったところで、大野さんから吉村先生に今回の受講の目的が伝えられた。「とにかく安定したフォームで投げたいんです」。
 本格的に投球を学んだことがなく、見よう見真似で練習してきた大野さん。なんとか3年間やってきたが、基本から学び直すつもりで、思い切って受講することに決めたようだ。
 最初の投球練習を見て、吉村先生は第一印象を伝える。「ボールに勢いがありますね」。
 しかし、リリースの瞬間、ヒジと腰をぶつけることができていないために、1球ごとにブレてしまう。これが大野さん自身が感じている「投球フォームが安定しない」ということにつながっているのだ。
 「大野さんのピッチングは、オーストラリアやニュージーランドの選手が効果的に使うチェンジアップのようになっているんですね」と吉村先生。きちんとヒジを腰に当てる投球フォームをマスターすれば、スピードは上がるし、変化球も容易にマスターできるようになる。
 「(他の受講者と比べて)私だけレベルが低くてすみません」と大野さんは照れるが、なかなかのもの。こういう安定したフォームで投げたいと思う選手の参加は、このコーナーにとってもありがたいことだ。

講習前の大野さんの投球フォーム
講習前の大野さんの投球フォーム
●講習前の投球フォーム。体の上下動が大きく、腕の回旋だけで投げている

チームの事情で3年前に投手に転向
 大野さんはソフトボール選手としてのほとんどをショートでプレーしてきた。中学3年生の時には三番を打ち、県大会で第3位の成績を残した。
 高校卒業後は、一時ソフトボールをやめた。再びプレーしたくなったのは、結婚、出産をした後のことだった。
 ブランクのある大野さんが入れそうなチームを探Lているうちに、知り合いの紹介で現所属チームの東村山愛好会に出合う。それから4年間は、慣れ親しんだショートを守った。チームはちょうどその頃、地元4市(東村山・東久留米・小平・清瀬)の大会で2連覇を果たした。
 だが、もともと部員が多くない上に、それまでのエースがチームを離れたこともあり、大野さんに経験のない投手の重責が回ってきた。
 「中学や高校でバッティングピッチャーをやったことがある程度でした」(大野さん)。それがいきなりチームのエースになった。投手として、もう一度優勝を経験できるかどうかは、この講習にかかっている。

まずは片足ピッチングで腕の使い方をマスターする
片足ピッチング
まずは片足ピッチングを徹底練習。大野さんは一人黙々とこの練習に取り組み、講習の最後には大きな成果を上げた
 大野さんの悩みである「投球フォームを安定させる」ためには、1にも2にも片足ピッチングを繰り返すことだ。
 右投手なら左肩を捕手に向けるようにして立ち、ウインドミルで放ったボールを自分のミットで受ける。この時の注意点は、ヒジを腰に当てること。
 この片足ピッチングは、一人でも手軽にできるし、ウインドミルの腕の動きを固めるのに効果的だ。
「重心を軸足に残して、右ヒジを腰にぶつけるようにする。この腰の回転は、バッティングの時と同じです」と吉村先生はアドバイスを送る。野手経験の長い大野さんにとって、バッティングに例えられることは分かりやすいようだ。すぐにうまくできるようになった。
 だが、その形を自分のものとして固めることが大切。吉村先生は、他の受講者とは別に、大野さんには一人でこれを繰り返すように指示を出した。
 「練習時問は長いですから、途中で力を抜いたり、休んだりしながらでいいですよ」。吉村先生は大野さんにそう声をかけた。

これができれば、いつまでもソフトボールができる
 「これまで、腰に当てて投げるというピッチングを教わったこともないので、当然やったことはなかった」という大野さん。それでも練習開始から1時間たった頃には、だいぶ感覚をつかんできたようだ。「何球かは、ああこれか、という感覚で投げられたボールはありました。そういうボールが増えてくれば成功ですね」。
 そうはいっても、3年間、腕の回旋だけで投げていたフォームを修正するのは並大抵のことではない。「まだ腕が体に当たるということに抵抗もあるんです」という本音も。それに対し、吉村先生は「今このフォームを覚えることで、60歳になっても70歳になっても投手ができますよ」とアドバイスした。
 今年59歳になる吉村先生は、その言葉を証明するように楽々と鋭いボールを投げ込む。その意味を大野さんは練習後に実感することになる。

ヒジと腰の当たる位置、ヒジの角度を確かめる
ヒジと腰の当たる位置、ヒジの角度を確かめる

ヒジを腰に当てる ヒジを腰に当てることによってテコの原理が働く。この動きだけで、ボールは勢いよく弾き出される

 

体重移動と軸足の使い方、投球も打撃も基本は同じ
体重移動と軸足の使い方
投げた後の足と体は伸び上がるように。ボウリングのフォームを意識する
 「明日も明後日もその次の日も、これを繰り返してください」。この片足ピッチングが投球の基本。たとえフォームが固まった後も、この基本に返ることを忘れないようにすることが大切だ。
 投球動作のうち腕だけはだいぶいい形になってきたところで、今度は体と足の使い方の練習に移る。これまでの大野さんは、投げた後に体が沈み込むような動作になっていた。実はこれが投球が安定しない原因の一つ。体が上下動してしまうと、当然コントロールが定まらない。ボールをリリースした後、軸足のヒザを曲げて沈み込むのではなく、ヒザを突っ張るように体を伸び上がらせるのがコツだ。これまでのフォームとは力の入れどころがまったく違う。軸足と反対の足は、ボウリングを投球する時の要領で体の反転を抑える。
 「生意気そうな投げ方に見えるでしょう。でもヒザを突っ張れば、自然に体重は乗っていくんですよ。それに、沈み込むよりも楽に投げられるでしょう」。
 もうひとつの注意点はステップを広くしないこと。ステップが広いと、体重の上下動が大きくなり、足腰が安定しない。狭いステップのほうが腰の回転が使えるし、腰の位置も安定するのだ。
 「バッティングでもスタンスが広くなると腰が回転しないでしょう。狭くすれば腰の回転が速くなり、強い打球が打てるようになる。投手も打者も一緒なんです」と吉村先生は話した。

捕手の視線から − 吉村達彦選手の話
 今回、捕手の役を引き受けてくれたのは、早稲田大学人間科学部3年生の吉村選手。最後に大野さんのボールを受けてみての感想を聞いた。
「最初よりもだいぶ球速が速くなりましたね」。これは、腕の回転のスピードを手首にうまく伝えることができた結果だ。目標としていた“フォームの安定”についても「体の軸が安定して体重移動もスムーズにできるようになったので、コントロールもよくなったと思いますよ」と合格点をつけていた。
 他の受講者と分かれての別メニューにも付き合い、約3時間の講習をともに過ごした大野さんの成長に、吉村選手も満足だったようだ。「まだまだ今日始めたばかりですから、これからもっとうまくなると思います」。期待を込めて、こう締めくくった。

講習後の大野さんののフォーム
講習後の大野さんの投球フォーム
●講習後の投球フォーム。安定感が増した
疲れ方がまったく違う「今から1試合投げられそう」
集合写真
練習を終えて記念撮影
 「最初、何もかまってもらえなくて、なんで私だけ別メニューでやらなければならないの、なんて思ったでしょう」。吉村先生はそう冗談を言いながらも、このフォームを固めることの重要性を改めて強調した。「まずは片足ピッチングでフォームを固める。ソフトボールには野球のセットポジションがないんです。すべてワインドアップで投げなければならないんです」。
 最後は、スピードボールとスローボールのコンビネーションで打者を打ち取るシミュ
レーションを行った。「思い切り速いボールと、思い切り遅いボール。その緩急で打者は抑えられます。最後は三振を取って終わりにしましょう」。
 講習を終えて、大野さんに感想を聞いてみた。「これまでは腕で投げていたので、試合中に上手投げができなくなるほど疲れてしまっていたんです。それで、ピッチャーゴロがファーストへの悪送球になったりしてました」。さまざまな試合を見ていると、なんでもないピッチャーゴロを処理する時に、送球を大きく逸らしてしまう場面を意外に多く目撃することがある。フィールディングでの投手の悪送球は、こんなところにも原因があるのかもしれない。「でも、今日の投げ方なら疲れをそれほど感じないので、上からでも下からでも、なんの違和感もなく投げられますね。今から1試合でも投げられそうな気がします」。2時間の講習の問に1試合分の投球数は優に投げたはず。それをこなしてからの、この頼もしい言葉。それを実感できただけでもこの講習の効果は大きかった。
 
※こちらはソフトボール・マガジン2004年7月号に掲載された内容です。
 
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