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第32回:払い腰<前編>
 藤原敬生7段は現役の最盛期が山下泰裕、斉藤仁、正木嘉美といった選手たちが活躍している時期とちょうど重なった。そのため、華々しい実績は少ない。しかし、そういう時代にともに柔道に打ち込んだということは選手としては貴重な宝を持っていると言える。現役時代は左の払い腰に一発の威力を秘めた柔道家だった。30歳の時に右腕の悪性腫瘍で引退を余儀なくされたが、これがなかったら大器晩成がなったかもしれない。今回は藤原敬生の払い腰を紹介する。
藤原敬生藤原敬生(ふじわら・たかお)
1958年、岡山県和気郡和気町生まれ。柔道5段で国体の相撲の選手として30数回出場した父から幼い頃から柔道の指導を受け、左組みも教わった。和気中3年の時に高校生7人を抜いて即日2段に昇段。明大中野高・工藤欣一監督から勧められて同高入学。76年のインターハイ重量級で準優勝。明治大へ進学し、レギュラーとして活躍。81年大学卒、新日鉄へ入社し現在に至る。主な戦歴は83年全日本選手権3位、太平洋選手権優勝。86年全日本準優勝。新日鉄現役時代は実業団体6連覇。国体でも東京代表で4回優勝。フランス国際をはじめ数々の国際試合に出場した。9年間の全日本強化選手、6回の全日本出場というキャリアを持つ。現在は全日本選手権などさまざまな大会で審判員として活躍している。

自分、相手ともに左組み
 自分の左釣り手は右横襟(鎖骨)のあたりを取ります。引き手は、普通は下から肘のあたりを取るのですが、私は力が弱かったので相手の左肘の少し上を取り、下に押さえつけて相手のパワーを弱めるようにしました。当時の重量級には力の強い人が多く、こうした工夫が必要でした。また、相手の釣り手を下に押さえつけることによって自分の柔道衣もずらし、相手の力を逃がして、釣り手を不十分にさせる効果もありました。
 崩しは、いったん相手を前に押し込みます。相手がこれに反発して押し返し、左足が前に出たとき、その左足の前あたりに自分の右足を踏み込みます。この時の体勢は、自分の右肘(引き手)、ヒザ、足の親指を結んだ線が1直線になっていることが大切。この時、自分の左釣り手はまねき猫のような形で相手の首を制して相手の左足に重心が掛かるように釣り上げます。引き手は肘を大きく上げて投げる方向に引き上げます。
 自分の左足をすばやく時計回りに回転させ、相手の左ヒザの下にがっちりとロックするようにあてがいます。自分の顔を右に回しながら、払い上げます。
 最後まで払いきることが肝要ですが、大事な役割を果たすのが右引き手です。甲を返し(小指が上になる)、前方斜め上の方向に、口の高さまで大きく引き上げます。決めの所は回すように下へ引いて相手をコントロールしながら畳に落とします。
自分、相手ともに左組み
自分、相手ともに左組み
自分、相手ともに左組み
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技術秘話
力が弱かったので、足さばきや体全体を使って引き出した
 私は中学3年の時に、すでに187cm、70kgくらいありました。長身だったので中学校の指導者や父から払い腰が効果的だと教わり、それから練習をし始めました。
 私は力が弱かったので、足さばきや両腕、体全体を使って相手を自分の斜め前方へ引き出す工夫をして、高校時代には、何とか試合で使えるようになりました。明治大入学後、関勝治、篠巻政利、上村春樹らの各先輩から「もっと体を使え」とアドバイスされ、しっかりと相手を引き出すことができるようになりました。
 この技で、斉藤仁先生を脇固めで負傷させた88年ソウル五輪95kg超級3位の趙容徹(韓国)を、フランス国際の時に投げたことがあります。

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