セレス小林のBOXING ACADEMY 〜楽しんで強くなるボクシング講座〜
類まれなる才能に恵まれていたわけではない。いくつもの敗戦も味わった。そんな試練を乗り越え、世界王座まで上り詰めたセレス小林氏。その明晰な理論に裏打ちされた確かな技術は、“考撃力”とも形容される。新装なったスポーツクリックのボクシングコンテンツは、そんな小林氏ならではのボクシング理論を紹介していく。第3回目のテーマは、ジャブ。「強くなるためには続けること」。この言葉をモットーに、小林氏は楽しんで学ぶことを提唱する。
第10回:左アッパー
協力/セレス・ボクシング・スポーツジム
[セレス小林]本名・小林昭司。1973年2月27日、茨城県岩井市出身。
高校卒業後に上京して国際ジムに入門、92年のデビュー戦は判定負け。97年9月、98年4月と日本フライ級王者のスズキ・カバトに挑むが失敗。5カ月後、3度目の正直で王座を獲得する。同タイトルV4後にWBCフライ級王者のマルコム・ツニャカオに挑戦するが、引き分けで世界奪取ならず。01年3月、WBA世界スーパー・フライ級王者のレオ・ガメスを10回TKOで下し、悲願の世界チャンピオンに。V2戦でアレクサンデル・ムニョスに8回TKO負けし、リングを去る。緻密な戦略に長け、重い左ブローを持つ左ボクサーファイターだった。引退後は古巣でトレーナーを務め、03年10月に独立。セレス・ボクシング・スポーツジムを開く。
パンチの打ち方はストレート、フックに続き、今回はアッパーに入る。まずは基本からということで、オーソドックスの左アッパーからやっていこう。アッパーは相手から見えにくく、ほかのパンチと軌道がまったく違うため、当たった時の衝撃は大きい。また、フィニッシュ・ブローとしてだけではなく、相手の動きをけん制する役割もあるため、様々な場面で有効に使えるパンチなのだ。
アッパーというと、あのリカルド・ロペスの大きく突き抜けるような一打を思い浮かべる人も多いことだろう。でも、あれは日本人選手や初心者のお手本にはならない。ロペスをはじめとするメキシカンは、特有の左ボディアッパーを打つし、あれだけ強振しても肩を壊さないのは、筋肉の収縮度や関節の可動域、骨格のつくりが我々と違うからだと思う。
日本人は一般的に手が短くて身体が硬い。ロングレンジのアッパーを無理に打てば、大きく空振りしてケガしたり、カウンターの餌食になってしまうだろう。要するに、アッパーは基本的にショートレンジ(接近戦)で威力を発揮するパンチなのだ。真下から突き上げるので相手に見えないことが多く、より大きなダメージを与えることができる。
私はアッパーが不得意だったので、相手の目先やリズムを変えるために使っていた。飛び込んでくる相手にはアッパーを見せるだけでも抑止効果があるし、フックとの組み合わせによる中と外の打ち分けで相手の堅いガードを崩すことも可能だ。ただし、フックと同じでアッパーを打っている間も片側がノーガードになるので、相打ちやカウンターをもらいやすい。したがっていかに速く、瞬時に打てるかということが重要になる。口でカウントしながら「1」のタイミングで打つのが理想だが、まずは「1」で打つ体勢に入り、「2」で打ち終えて基本姿勢に戻れるようになろう。
身体の回転による遠心力を利用して打つという点でも、アッパーはフックと似ている。アッパーはさらにその横回転(遠心力)を肩で縦方向に変える。そして肩を軸に、振り子の要領で腕全体を押し出すかたちになる。
まずは、基本姿勢から腰を入れ、打つ体勢に入るまでの「1」の動作からみていこう。ここでの鉄則は、前足のヒザを曲げて重心を前にシフトすること。その重心比率は、基本姿勢が前足6、後ろ足4なら、アッパーを打つ体勢では7対3ぐらいになるのがいい。
重心移動を覚えたら、腕の動きも入れてみよう。アッパーを打つ腕は、重心移動と同時にヒジを背中の後方まで引いてくる。ガードしている腕はヒジを畳んだまま、やや前方に押し出す。そのガードしている腕の動きが実はミソで、ブレーキの役目も果たしてくれている。ガードを前方に少し押し出すことで、過度な重心移動や上体の流れを防ぐと同時に、より速くスムーズに打つ体勢に入ることができるようになるのだ。
では、パンチを打ち出す「2」の動作へ進もう。背中の後方まで引いてきた腕を、今度は肩を軸にして前方へ突き出していく。ここでのポイントは、腰の回転による力を肩に伝えてやること。強く打とうとするあまり、背中が反り返ったり、前足のヒザが伸びきったり、後ろ足へ重心が移ってしまうことがあるが、これらは厳禁。私はどうしても力んでしまい、ヒザを伸ばすクセがあった。ヒザが立ったり、エビ反りになると、バランスが崩れて次のパンチが打てないうえに、軽いパンチでも倒される危険があるから注意しよう。
アッパーの打ち方
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| (1)まずは基本姿勢。どのパンチを打つにしてもまずはこの姿勢から入る (2)腰を回転させ、ヒザを柔らかく使って沈み込む。ここで腰を折ってしまうと回転が使えず、手打ちになってしまうので注意。重心は前にシフトし、7:3くらいの割合にする。それと同時にヒジを背中の方向に引いてくる。ここまでが「1」の動作 (3)そして「2」の動作へ。ヒザのバネ、腰の回転を使い、後方まで引いてきた腕を、肩を軸にして前方に突き出していく。インパクトの瞬間のヒジの角度は120度くらいが基本。最後のヒジの角度の調節が、ピンポイントでアゴをとらえるコツ。この時もヒザは曲げたまま (4)打ち終わったらすぐに拳を元のガードの位置へ戻す |
最後に打ち出す腕の軌道と拳の向きについて。ピンポイントでアゴを打つアッパーは、相手の両腕(ガード)の間を抜けていかなければならない。脇をあけて打つと相手のガードに当たってしまうし、勢いあまってクロス(外側へ)に打ちすぎてもアゴへは達しない。打ち出すときはヒジで自分のヘソをえぐるような感じで動かすと、拳はおのずと下からまっすぐに上がってくるはず。その拳の向きは手の甲が相手側を向いているのが基本だ。そうすることでインパクトの瞬間に力が入り、スナップを効かせることもできる。
これは……ダメ!
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| (1)打つ瞬間に背中が反り返ったり、ヒザが伸びてしまうのは厳禁。次の動作に移れないばかりか、軽いパンチでもダウンをもらう危険性がある (2)脇をあけて打つと、相手のガードの隙間をとらえられず、パンチはアゴに達しない |
オーソドックス・スタイルの選手は、レバーブロー(左ボディブロー)からアッパーを習うこともあるようだが、私はアゴへのアッパーからでいいと思う。基本的な打ち方はどちらも同じなので、あとは応用すればいい。次回はステップを交えたアッパーに入ります。





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